2017/06/12
ブータンに来て9か月が経ちます② ~イノベーションコンペティション編~
昨年の11月、校長の部屋に呼ばれ、中に入ると何人かのスタッフが既に待っていました。
スタッフ 「ブータン国内で開催される、イノベーションコンペティション(第2回)に参加、出品したいので、アイデアが欲しいんだ。」
わたし 「??」
しばらくどういったものかを説明され、前回(第1回大会)はスイス人ボランティアの助言で、2重ガラスの窓を作成し出品したところそれが3位に入賞したとのこと。
スタッフ 「日本人の君のアイデアが欲しい。。。スイス人が賞取れたんだから、日本人だって取れるよね!?」
しかも締切はあさって。
作品の条件は、ブータンにないもので、ブータンにとって有益となるもの。
かなり難癖のある依頼。
だいたい、2重ガラス窓なんてブータンにないだけで、日本ですら何十年も前からあるもので、アイデアもクソもないよな、ずるいぞスイス人ボランティア。
しかも、この雰囲気、今、答えやアイデアを出してくれと言わんばかりに私の発言を待っている。
わたし 「急に言われても・・・。1晩考える時間が欲しい。」
スタッフ 「締切はあさってだからね、明日には必ずお願いね!!」
だいたい、そんな締切間近に無理難題を押し付けてくるのが間違っている。
まあ、これがブータンの国民性なのは理解して慣れてきてはいたけど、スイス人ボランティアと比較して、人のプライドを利用しようという魂胆がちょっと。。。
他のスタッフが、薪ストーブを使って何か作れないかとアイデアを出していたので、それを元に1日考えました。
ブータンの寒冷地では、暖房器具として薪ストーブが多く使われています。
薪ストーブの上には、大きなアルミ製のたらいを載せてお湯もつくります。
そのお湯は、そのままお茶や料理に使ったりします。
↑ 写真はイメージです(#^.^#) 彼もイメージです!!
日本でたとえるとやかんを石油ストーブの上に載せる感覚ですが、少し違うのは、タライなのでお湯を汲む必要があること。お湯を汲む際、マグカップをそのままつっこんだり、お風呂で使うような手桶を使いますが、だいたいこれが薄汚れていまして・・・
それでお茶を出されるので、はじめこそ少し抵抗がありましたが。。。
話しはもとい、私が注目したのは、煙突の部分。
煙突は触ればヤケドするほど熱いですが、ただ煙を排出するだけのもの。
ここから熱を取り出して。。。
この熱を再利用する。。。
少し考えた結果、煙突内に銅管を張りめぐらし、銅管には水を流してお湯に変換。
そのお湯を利用した暖房機器を作ろうと考えて、手書きで図面を描きました。
翌日、担当スタッフに図面をみせると時間もないからか、これでいこう!! ということになりました。
↑ 1つめのデザイン原稿を失くされてしまったので、こちらは描きなおしたものですが。
スタッフ 「申し訳ないんだけど、この図面を明日までにコンピュータで描いてくれないかな。CADで提出することになっているんだ。」
わたし 「申し訳ないけど、CADのソフト持ってないし、それくらいは自分達でやってもらえないかな。アイデアは出したからね!!」
この時点で、いいように使われていることに気がついていればよかったのですが。。。
結果、締切の1時間前に送信したようです。。。
その後冬休みに入り、旅先から一度任地に戻った際、校長からお呼びがかかりました。
校長 「イノベーションコンペティションのことなんだけど、審査を通過したので、実物を作らなければいけないんだ。私たちには作る技術がないから、是非、まさし主導でこのプロジェクトを進めて欲しいんだ。必要な材料のお金は払うから、日本に帰った時に買ってきてもらえないか」
わたし 「う~ん。。。 はい わかりました。」
2月
学校がはじまりました。
2月某日
校長 「実はコンペティション、出品するかしないかの返答が昨日までだったのを忘れてて。でも問い合せたら間に合ったよ。」
わたし 「そうですか(・・;) まあ、ブータンでは手に入りづらいと思われるものは日本から買ってきたので、あとはこれだけ揃えてください」
とリストを渡しました。
目標予算があらかじめ示されていたため、薪ストーブは学校にあるものを使うだろうし、タンクとして使用したい材料はそこらへんにありそうなドラム缶でいいかな。
そんなこんな予算を気にしながら材料リストを作ったにも関わらず、こともあろうか学校にある薪ストーブを使わず、薪ストーブ屋さんに発注。しかも完成が1か月後。
注文した理由は、学校の薪ストーブは訓練生が作ったもので、見た目が悪いから。
いったい、何を考えているんだろう この人らは。。。
この時点で、発表が3月の3週目あたりと聞いていたので、製作期間が1週間弱しかなくなりました。
薪ストーブ、最悪、薪ストーブの煙突がなければ肝心要の熱交換器を作れません。
しかも1回で成功する保証はなく、思考錯誤で改良する暇もない。
どこまでも計画性のないブータン人。
社会科見学時に、材料の買出しもすることになっており、その時からずっと、
わたし 「タンクはどうするの?? タンク(ドラム缶)は間違いなく手に入るんだよね??」
と、薪ストーブの次に重要な物品も確認したのですが、どうやらそれもオーダーで作成することに決まっていたようで、
スタッフ 「タンク程度なら1日で出来るってさ、だからそんなに焦らなくても大丈夫だよ。」
社会科見学から戻り、薪ストーブが納品されました。
5日後にテストをすると言っています。なぜ??
しかも、まだタンクの発注すらしてないんだけど。
製作1日目
タンクの注文のため、朝からもう1人のスタッフと打ち合わせしタンクのサイズを決め、彼がCADで図面を描きました。
そもそもコストがかからないように、ドラム缶でいいと言ったのに。。。
あくまでも見た目にこだわりたいらしい。
私は、熱交換器の作成に取り掛かろうと、薪ストーブの保管してある事務室へ。
しかし事務室には鍵がかかっています。
担当者に電話すると、急用で街に行かなきゃならなくなったから、戻りは昼すぎになるとのこと。
結局、彼が帰ってきたのは17時すぎで、熱交換器も作れなければ結局タンクの発注も出来ず。
仕方なく温水を利用した暖房器具から作ることに。
当初は、薪ストーブを使った部屋は暖房器具は不要なため、お湯を別室まで配管して別室を温める暖房を作ろうと思っていたのですが、
もっとシンプルするため、床暖房を作ることに変更していました。
本音は、ブータン建築の家は隙間だらけで寒いので、暖房器具ではさほど部屋が暖まらないのではないかと懸念があったからです。
しかし、何度説明しても床暖房を知らなかったり、体験したことのないスタッフは、それで部屋が温まるとは思えないとの返答。
わたし 「いやいや、だから部屋を温めるんじゃなくてね、日本の住宅だったら部屋も少し暖まるけど、お尻や足元がじんわり温かく感じればOKなのよ」
床暖房のサイズは、うちにあったじゅうたんと同じサイズの、180センチ×90センチ。
大人が3人座れるサイズ。大柄な人でなければ寝そべってもちょうどいいサイズ。
木工コースにベニヤや骨組みとなる木材を注文し、その間に温水を通す配管を作成していきます。
本来ならば訓練生にやらせてみるのがいいんでしょうが、失敗が出来ないうえに、繊細な組み立てが必要なため、訓練生にやらせるのはリスクが高いと判断、組み立ては
遠慮してもらって、配管のネジ切り作業のみ手伝ってもらいました。
↑ 配管コース 2年生の訓練生
↑ 仮組み
しかし私が得意であるこの作業も、日本のように容易には進みません。
機械の歯が悪くて綺麗に加工できなかったり、日本ではありえないけど、鉄管の品質、強度も悪くてネジ切っている最中に鉄管が割れてしまったり。
はたまた接合に使うシールテープの品質がこの世のものとは思えない程品質が悪くてイライラ。
時間いっぱいまで作業してこの日は終了。
製作2日目
前日の作業の継続。
そして急に事務担当者がいなくなってもいいように、薪ストーブの煙突だけは別室にキープ。
熱交換器の製作にもとりかかることに。
一次帰国時に、約6ミリの銅管と約9ミリの銅管の2種類を持ってきましたが、薪ストーブの煙突が直径約10センチのため、
細い約6ミリの銅管をチョイス。
一旦、直径10センチのコイル状に銅管を成形するものの、もうひとまわり小さく成形しないと煙突の内部には収まらないので、
直径8~9センチくらいの筒状のもので成形するため、倉庫から倉庫を探し歩きますが、直径7.5センチの配管しか見つからず、
溶接コースに作れるか聞いたところ、正円には作れないとの返答のため、作業は一旦、保留。
もう1人のスタッフは、タンクをオーダーしに街まで行ってました。
彼が戻ってきたので話しを聞くと1日で完成するなんて嘘。
3日は欲しいので、製作期限の5日目に取りに来いとのこと。
だからあれだけ、確認したのに。。。
しかも、ドラム缶でいいんだってば。。。
ところで、コンペティションは首都のティンプーで開催されます。
居住外国人でも自由に移動を認められていないこの国では、事前に移動の許可証を申請しなければなりません。
てっきり自分もコンペの会場に行くものだと思っていて、許可証の準備をしなきゃならないため、校長に聞いたところ、信じられない答えが。
校長 「このコンペティションは、ブータン人が考えて作成するブータン人のためのコンペ。 だから、このアイデアや作品が日本人が考えたものだってバレたら減点の対象になってしまうから、申し訳ないけど、まさしは。。。」
えっ!?
なんだと!!
ここで、ようやくいいように使われていることに気が付く自分。
製作3日目
熱交換器は、結局 7.5センチの配管を使って成形。
また、煙突内部に成形した銅管を収めるのに煙突をカットしたり少し改良。
煙突に小さな穴をあけて、中から銅管を出す作業が一番難しかった。
↑ 銅管をコイル状に成形し、煙突内部に収めました
↑ 煙突外観
後は、試験時にお湯になってくれることを願うのみ。
前述しましたが、約6ミリの銅管と約9ミリの銅管を用意していたのですが、もちろん、直径が大きい銅管のほうが断面積が大きくなるため、熱交換の効率がよくなります。
しかし、大きいサイズの銅管を直径10センチ以下のコイル状に成形するのは困難で、10年弱銅管を扱っている私でもこの作業は出来ないと判断しました。
機械等使えば、理論上7センチ程度のコイル状にすることは可能ではありますが。
ところが、溶接コースのスタッフ2人が銅管を扱ったこともないのに、
スタッフ2人 「なんで出来ないんだよ、出来るだろう!?」
わたし 「いや、難しいよ。てか、無理だね。。」
その後、スタッフ2人は俺達でやってみると言い出すので、
わたし 「やってみれば!!」
と彼らに銅管を渡し、腹が立ったので彼らの作業は見に行かずに、他の作業をしていました。
わたし 「俺が10年近く銅管扱ってて難しいって言ってんのに、あいつらできるだってさ、本当かね?」
と半ギレしながら 別のスタッフに話しかけ、
別のスタッフ 「いやあ、わからんね~。たぶんできないだろうね(汗 汗)。。。」
しばらくして、案の定、潰れた銅管を持ってきて、
スタッフ2人 「まさしの言うとおり、出来ないね、これは。。。」
わたし 「s(・`ヘ´・;)ゞ」
当日は土曜日でしたが、夕方まで作業しました。
明日も少し作業しようという話しになりましが、ここまで社会科見学を通して、19日間で1日しか休んでいなかったので、乗り気ではない自分。
翌日の日曜日。
昼少し前に、スタッフから電話がかかってきて、今からやろうとのこと。
着替えて準備していると、再び電話が。
スタッフ 「また鍵がないから出来ない。」
製作4日目
床暖房はほぼ完成しました。
↑ 鉄管の下には、鉄板も敷いてあります!!
↑ 隙間に断熱材を入れて保温性を高めました
ちなみにこの国ではほんのごく一部でしか、電動ドリルドライバーは使われていません。(先日の社会科見学で行った家具工場で使われていました。ビスはシンガポールからの輸入とのこと)
日本ではプラス頭のビスが使われているため、電動ドリルドライバーが使えます。
マイナス頭のビスは、全く使えないわけではありませんが、実質使うことは難しいです。
ブータンでは、プラス頭のビスが全く流通していません。材料屋さんに行っても売っていません。
電動ドリルドライバーも使わないからか100%マイナス頭のビスです。
そして、木材の接合はもちろんクギです。
床暖房の接合をクギでやられてしまうと後からのメンテナンスができません。
したがって、組み立ては日本から持ってきたプラス頭のビスと持参した電動ドリルドライバーで自分で組み立てました。
日本でも30~40年前までは、流通していたマイナス頭のビスですが、プラス頭のビスのほうが、力もかけられるし断然作業効率がいいと気が付いたからでしょう、今ではマイナス頭のビス(木ビス)は売られていません。
しかしながら、ブータンではプラス頭のビスがそもそもないので、力がかけられるとか作業効率がいいとか、気がついている人はほとんどがいません。
それどころか、マイナス頭のビスが使いづらすぎて、本来ならドライバーを使ってネジ込んで固定するものなのにもかかわらず、クギとして、普通にトンカチで叩いて固定していきます。
なので、正確に打ち付けなきゃいけないドア部品などでズレてしまい、機能していないところが多々あります。おかげで、すぐに緩んできます。
国の上層部が気が付いてくれないと変わらないだろうなあ。
製作5日目
朝からタンクを取りに街まで出るというので、一緒に街まで行きました。
行く途中、あと20センチで正面衝突って、恐ろしい体験をしましたが。。。
タンクや他の材料を揃えて学校に戻ったのは14時過ぎ。
コンペの日程は4週目になっていたので、多少、余裕があったはずですが、製作期限が今日までだったのは、校長が翌日から長期出張のため、その前にどうしても見たかったようで。
スタッフ 「18時くらいには、完成するよね?」
わたし 「かなり難しいね。」
タンクに穴をあけたり、配管したり、そんな簡単じゃないんだよ。。。
案の定、穴の位置と大きさを指定し、溶接コースの訓練生たちに手伝ってもらったところ、学校にあるドリルの刃では開けられないとのこと。 私は他の配管作業をしていたので、少し実演して、
わたし 「こうやって根気よく広げていくしかないから。。。」
しばらくして、やっぱり開けられないと。。。
そして、訓練生いわく溶接で穴をあけるのが手っ取り早いとのこと。
彼らに任せて仕上がってきた穴は、ガタガタの穴で、穴のまわりには溶接のカスがベタベタくっ付いている状態。
少し小さめの穴に限っては、彼らが部品を無理やり叩き込んだおかげで、ネジ山が壊れてしまい固定できず、イライラする自分。。。
水を入れると案の定、溶接カスが邪魔して水漏れし放題。
そこにきて、校長が来て、あ~でもない こーでもない言い始めて、配置を変えたり、もっと綺麗に配管しろだので作業が中断。
結果的にタンクとの接合部の水漏れもひどく、一部部品も固定出来なくなったので、校長へのお披露目は中止になりました。
校長 「本当に出来るんだろうね!? これで賞取れなかった パニシュメント だよ。」
と笑えない冗談を言い捨てて、旅立ちました。
製作6日目
校長がいなくなったので、ゆっくり確実に作業することができるようになりました。
タンク内の溶接カスを研磨して取り除きましたが、タンクニップルという部品のパッキンがやっぱり粗悪品で水漏れが止まりません。
日本から持参していた、コーキングを施して水漏れを止めました。
夕方から水を張り、薪ストーブに薪をくべ、いよいよ実験スタート。この日は屋外での実験となりました。
↑ モーターを起動して水が循環されるかを確認。無事に出てきました。
↑ いよいよテスト開始!!
↑ 集まってきて暖をとるインストラクター
↑ タンク内の水温のチェック
順調にお湯は作られるものの、約100リットルの水がお湯にならないと床暖房が温まらないため、翌日に配管経路を変更することに。
製作7日目
配管経路を変更し、午前中に実験。
床暖房も順調に温まりました。
↑ この日の陽射しが強くて、めっちゃ焼けました(・_・;)
夕方にも実験をしました。
しかし、急に外気温が下がり、期待していた温度まで上昇せず焦りが出始めます。
でも、屋外での実験に問題があるという結論になり、翌日は屋内で実験することに。
製作8日目(最終試験日)
事務室の窓を開けて薪ストーブの煙突を出し、各コースの課長インストラクターを集めて実験開始。
↑ プレゼンの練習
結果は上々。
部屋の室温は、10℃から20℃まで上昇。
床暖房は27℃まで上昇。足裏でじんわり温かく感じられます。出来れば30℃は弱は欲しかったところ。
タンク内のお湯は、40℃強まで上昇。浴槽に使うにはちょうどよい感じ。
その晩、もう一人のスタッフ(写真の彼)は、泊まり込みで試験を継続。
結果、床暖房は目標値の30℃を達成。
タンク内のお湯も60℃近くまで上昇しました。
私1人の製作ならば、もう少し細かい見栄えなどにこだわって作ったのですが、途中で判明したブータン人のためのコンペということで、彼らに細かい部分は任せようと思ってあえて放置していましたが、誰も修正することなく。。。。
9日目に、スタッフ2人はこれらを車に積んでコンペに旅立ちました。
配管コースのスタッフは同行しなかったため、会場での水漏れ等のトラブルが起きないことを祈りつつ。
↑ 前述の彼がCADで描いた図面
コンペの結果
コンペの結果は、2位でした。
↑ テレビ取材を受けるスタッフ
1位を目指していましたが、小国とはいえ国内2位だったわけで、まあ素直に喜んでいいかな。
前回のスイス人ボランティアが3位だったわけだし、それを一応超えたしね。
しかし、1位とはものすごい僅差だったようで、細かいところを修正できなかった点を悔やんでいました。
おい、わかってたんかい!!
ちなみに1位の作品は、自動糸巻器。
パソコンを使ってプログラミングまでしているようです。お母さんが手で糸を巻き巻きしている姿をみて、思いついて製作に至ったんだとか。 エピソードからして1位にふさわしい。これぞ、ブータン人が考えるブータン人のためのイノベーションコンペティション。
うちの学校は、外国人が作るという不正をしている限り、1位は取れないだろうね。
アイデアや技術だけじゃない、愛があってこそ新しい物は生まれ、愛されていくんじゃないかな。
自分の作品は、誰かを想って作ってなかったし。
そんな風にこのコンペを通して思った次第です。
残りの活動期間は、いいように使われないように気を付けます。
来年もコンペあるのかなあ(・・;)
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
おわり